脳の病気 脳の手術

脳の病気、脳の手術について分かりやすく解説します。自分の言葉で書きますので、間違った表現、間違った内容が含まれる可能性もあります。情報の取り扱いには十分ご注意下さい。

記事は順次追加していき、Twitterでもお知らせしますのでフォローをお願いします。脳の病気は、術後も長期的に経過を見る必要があるため、近くで信頼できる医師を見つけるのが良いと思います。愛知県東部の方は、直接相談にも乗れますので、必要な方はご連絡下さい。


質問箱(脳神経外科医@愛知県)

下垂体腺腫に対する開頭手術のリスク

経鼻手術のリスクと違い、開頭手術だけであれば、髄液漏の心配はほとんどありません。

〇神経の損傷
腫瘍とくっついている神経や、腫瘍にたどりつく経路を横切っている神経は、手術操作で傷つけてしまって後遺症となる可能性があります。
視神経はほぼ確実に腫瘍とくっついており、術前からすでに症状も出ていることが多いです。手術操作で新たに視神経への傷を増やしてしまうと、視力や視野(見える範囲)の障害が悪化する可能性があります。
目を動かす神経として動眼(どうがん)神経、外転(がいてん)神経、滑車(かっしゃ)神経の3種類がありますが、特に動眼神経はこの手術では注意が必要です。動眼神経に傷がつくと、物が二重に見える複視(ふくし)や、まぶたが開かなくなる眼瞼下垂(がんけんかすい)などの症状が出ます。

〇動脈の損傷
この手術では、内頚動脈などの太い動脈を傷つけることはまずありませんが、そこから出る細い動脈に注意が必要です。前脈絡叢(ぜんみゃくらくそう)動脈が流れなくなると、半身麻痺になることがあります。上下垂体(じょうかすいたい)動脈が流れなくなると、視神経に栄養がいかなくなり、片目が見えなくなることがあります。

〇脳の損傷
脳に少し圧迫をかけて手術経路を作りますので、圧迫した脳に傷がつくこともあり得ます。手足の麻痺や、高次脳機能障害などが考えられます。

〇下垂体機能低下
開頭手術では、下垂体茎部(かすいたいけいぶ)という、下垂体がぶらさがっている茎の部分が特に重要になります。下垂体茎部は、細くて弱い部分ですが、ホルモンへの影響がとても出やすい場所です。特に出やすいのが、尿崩症(にょうほうしょう)と呼ばれる症状で、尿の量がコントロールできなくなり、1日に何リットルもの尿が出るようになります。脱水になって口が乾いたり、体全体の水分バランスがくるって、吐き気がしたり、もうろうとしてくることもあります。点鼻(鼻へ噴霧する薬)や飲み薬でホルモンの補充が必要となります。
その他のホルモンも、機能が低下した場合は、薬(ホルモン製剤)による補充が必要となります。

〇残った腫瘍からの出血
下垂体腺腫は血の出やすい腫瘍です。しっかり腫瘍が取り切れれば血も出なくなりますが、腫瘍がある程度残った場合は、術後にそこから血が出ることがあります。少量の出血であれば自然に吸収されますが、多量の出血の場合は、脳を圧迫して重い後遺症が残ったり、命に関わることもありえます。そういう意味でも、できる限り多くの腫瘍を取り除くことが重要です。