脳の病気 脳の手術

脳の病気、脳の手術について分かりやすく解説します。自分の言葉で書きますので、間違った表現、間違った内容が含まれる可能性もあります。情報の取り扱いには十分ご注意下さい。

記事は順次追加していき、Twitterでもお知らせしますのでフォローをお願いします。脳の病気は、術後も長期的に経過を見る必要があるため、近くで信頼できる医師を見つけるのが良いと思います。愛知県東部の方は、直接相談にも乗れますので、必要な方はご連絡下さい。


質問箱(脳神経外科医@愛知県)

下垂体腺腫に対する経鼻手術のリスク

比較的安全性の高い手術ですが、以下のような合併症を起こすリスクがあります。

〇髄液漏(ずいえきろう)
正常下垂体(および腫瘍)のあるトルコ鞍と、上方の脳の空間は、鞍隔膜(あんかくまく)と呼ばれる薄い膜で仕切られています。脳の空間には、髄液(ずいえき)という無色透明の水が満たされており、鞍隔膜に穴が開くと、鼻側に髄液が漏れてくることがあります。腫瘍を取っている時に、穴が開いて髄液が漏れた場合は、脂肪やさまざまな物でふさいで髄液漏れを止めますが、相手は水なので、ほんの少しのすき間でも、そこを伝って、術後も水漏れが続く場合があります。水が漏れ続けると、そこはいつまでもふさがりませんので、その状態を放置すると、鼻の中のばい菌が脳の方へ入り込み、髄膜炎(ずいまくえん)という脳の感染症を起こすことがあります。

〇下垂体機能低下
腫瘍は下垂体から発生しています。通常は、正常下垂体と腫瘍の境界ははっきりしているため、腫瘍のみを取り除くことが可能ですが、正常下垂体を大きく傷つけてしまうと、ホルモンが十分作れなくなり、下垂体の機能が低下してしまうことがあります。この場合、薬(ホルモン製剤)を飲むことでほぼ正常の生活が可能ですが、一生薬を飲み続ける必要があります。

〇神経の損傷
腫瘍によって圧迫された視神経に何らかの力が加わると、視力や視野(見える範囲)の障害が悪化することはありえます。
また、腫瘍の外側には目を動かす神経があり、これらの神経を損傷すると、複視(物が二重に見える)になります。しかし、この神経の周りまで腫瘍を取りにいくのは、ホルモンを作っているタイプの腫瘍が外側まで広がっている場合のみなので、通常のケースでは、この症状が出ることはありません。

〇動脈の損傷
腫瘍の外側には、海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)という静脈と、内頚動脈という太い動脈があります。静脈を傷つけると多量に血は出ますが、これを止めることはそれほど難しくはありません。動脈の損傷は、命に関わる大出血になります。止めることもなかなか困難ですし、血が止まっても、血管が流れなくなると命に関わります。また、後からそこに動脈瘤ができて、それが破裂すると大出血となる危険もあります。内頚動脈の損傷は、通常ではまず起こりませんが、一度起こると大変なことになりますので、注意が必要です。

〇残った腫瘍からの出血
下垂体腺腫は血の出やすい腫瘍です。しっかり腫瘍が取り切れれば血も出なくなりますが、腫瘍がある程度残った場合は、術後にそこから血が出ることがあります。少量の出血であれば自然に吸収されますが、多量の出血の場合は、視神経などの周りの組織を圧迫しますので、緊急で再手術が必要となることがあります。そういう点でも、できる限り多くの腫瘍を取り除くことが重要となります。