脳の病気 脳の手術

脳の病気、脳の手術について分かりやすく解説します。自分の言葉で書きますので、間違った表現、間違った内容が含まれる可能性もあります。情報の取り扱いには十分ご注意下さい。

記事は順次追加していき、Twitterでもお知らせしますのでフォローをお願いします。脳の病気は、術後も長期的に経過を見る必要があるため、近くで信頼できる医師を見つけるのが良いと思います。愛知県東部の方は、直接相談にも乗れますので、必要な方はご連絡下さい。


質問箱(脳神経外科医@愛知県)

バイパス手術

脳の血管は、太いところが1本つまったり、糸のように細くなってしまっても、他の部分から流れてくる側副血行路ができ、それによってまかなわれていることがあります。この場合、脳の血流量は減っていても、何とか脳梗塞にならずに済んでいるという状態のことがあります。しかし、この状況はとても不安定ですので、血圧が下がったり、水分不足で脱水になるなど、ちょっとしたことで脳梗塞を起こしてしまう危険があります。そこで、血液をおぎなって脳梗塞を起こしにくくするために、バイパス手術を行います。(脳の太い血管がつまっていても、脳の血流量が減っていなければ、この手術は行いません)

つなぐ元の血管は、皮膚を栄養している血管です。こめかみのあたりにある浅側頭動脈(STA)や、耳の後ろにある後頭動脈(OA)などが使われます。STAは耳のすぐ前でよく触れますが、OAは少し深い部分を走行しているため触れにくいです。
最も一般的に行われるのは、STA-MCAバイパス術です。STAは先ほど述べた浅側頭動脈、MCAは脳の血管で中大脳動脈の略称です。つまり、STAをMCAにつなぐ手術ということです。
まず皮膚を切って、つなぐ元の血管を剥がしておき、傷つけないように保護しておきます。次に、その下の層にある筋肉を切って頭蓋骨を出し、開頭(頭蓋骨をはずす)を行います。骨の下には硬膜という膜がありますので、それも切って、脳の表面が見えるようにします。つなぐ先の血管は、この脳の表面を走っている血管で、太さや場所で適切な部分を選びます。
つなぐ元の血管を遮断して先端をつなげる形状に切り、つなぐ先の血管も、つなぐ部分の前後を遮断して血が出ない状況にしておきます。つなぐ先の血管を縦に切開し、つなぐ元の血管と10~15針ほどで縫い合わせます。遮断をすべて解除すればバイパスの完成です。血管の太さは、STAで直径1.5mm程度、MCAで直径1mm程度で、そこに10~15針縫うわけですから、かなり細かい作業になります。
あとは、硬膜を縫い合わせ、はずした骨をプレートとネジで固定し、筋肉を縫い合わせ、皮膚を縫って手術を終了します。

手術のリスクとしては、新しく脳梗塞を作ってしまう可能性があります。バイパスをつなぐことで、元々流れていた血流とぶつかり合ってしまい、むしろ術前より流れが悪くなってしまうことがあります。また、全身麻酔が必要ですが、麻酔の影響で血圧が上下してしまうことがあり、血圧が下がりすぎると、脳の血流が足りなくなって脳梗塞となってしまう可能性も考えておく必要があります。
その他には、まれですが、頚動脈内膜剥離術(CEA)の項で述べた過灌流症候群を起こすこともあります。
また、皮膚を栄養している血管を頭の中につないでしまいますので、皮膚の栄養が減ってしまい、傷が治りにくくなるトラブルも起こりえます。